…こういうアンサンブル重視のアヴァンギャルドな作風のバンドって、絶対ライブとか凄い事になってるんだろうな…と期待して買ったんですが、予想通りこれは凄いです。 「De Ware Hond」を聴く限りでは、このバンドの音楽には奇天烈さだけでなく、どこかファニーな雰囲気もあったように感じたんですが、ライブ盤ではファニーさが消え、壮絶さに取って代わられている感じがします。
メロブラに鮮烈な泣きメロ、クサメロの類を求めるならば1st、妖気の漂う雰囲気を求めるならこの作品がお勧め。因みに、CDトレイが真っ黒なので外してみたら、そこにはニーチェの言葉が…その中の「if you gaze for long into an abyss, the abyss gazes also into you」というフレーズはMAYHEMのイタリアのライブ盤で、Maniacが言ってたMCとほぼ同じですね。 ブラックメタルを聴いて、教養を付けるなんていうのも面白いかも(笑)。
ANOREXIA NERVOSAの作品(特に2ndや3rd)がシンフォニック・ブラックの名盤として高い評価を受けているのって、単にオーケストレーションがド派出でメロがいいからだけでなく、ギターがオーケストラのサポートに堕することなくしっかりと主張している事、正統派等の聞きやすい方向におもねることなくブラックメタルとしてのブルータリティを貫いている事などから来る、シンフォブラックとしてのバランス感覚が優れている事が理由だと思うんですが、このSCARS OF CHAOSもそうした特質を備えた、優れたシンフォブラックを演ってますね。
ULVERやTHE 3RD AND THE MORTAL、MANESなど、ノルウェーにはインダストリアル/エレクトロニカ方面に活路を見出すバンドが少なくないですが、前述のバンド達がそうした要素を情景描写に使う傾向が強いのに対し、MORTIISはラップやNINE INCH NAILSそっくりの歌メロを導入した、歌モノ要素の強いある意味売れ線と言えなくもない路線。
この曲が生温いというのは、どこをどう聴いているのか分からないですね。サビのバッキングのシンセとギターのクールすぎる掛け合いに「Baby, do you~」のバンドが一体となったグルーヴ、サビメロのキャッチーさに巻き舌Liarのインパクトと一曲通して隙が無いです。Marty Friedmanも言ってたけど、やっぱり日本の音楽はレベル高いと思う。 あと、この頃の曲は手癖で曲を作ってる感じがしないのも良いですね。正直、最新作「ACTION」はそれを感じてしまう箇所がかなりあったので…
個人的には、「One of these Nights」や「Seasick」辺りはサイケデリックロック要素の取り入れ方があからさま過ぎる(だから駄目という訳ではないけど)ように思うんですが、禍々しいサイケデリアをブラックメタルらしくリフによって演出する「Omnivore」辺りは彼らの個性が現れた、掛け値無しの名曲だと思います。
LIMBONIC ARTの初期作(1st、2nd、デモ再録)って、バンドサウンドよりもキーボードを中心に据えたサウンドが、神秘性や禍々しさなどのブラックメタル独特の価値観を一般的なメタルの価値観の外側に成立させた事で画期的だったと思うんですよ。そのサウンドを作った立役者であるMorfeusがこういうメタリックな音のバンドを演るなんてかなり意外…。尤も、LIMBONIC ARTの復活作(Legacy of Evil)もリフのメロディの強い、メロブラに近いサウンドだったので、最近のMorfeusはメタルモードにあるのかもしれませんね。
グルーヴだけでなく、禍々しさまで感じさせる刻みリフでつかみはばっちり。歌詞の「long ago / I grew deaf~」の部分、初期EMPERORの邪悪で寒々しい作風や、その部分のみを評価するファンへの訣別とも取れるんですがどうでしょう。 でも個人的にIhsahnって余り「Misanthrope(厭人)」っていうイメージが無いんですけど…奥さんいるし、ギターを教えてたこともあるらしいし。
前作の「Many Are We」の流れを汲むブラックンドスラッシュ。 ヴォーカルとバンドが一体となってグルーヴを演出したり、缶を叩くような超豪速ブラストに挑発的なGメロを乗せたり、展開も劇的でテンションが天井知らずで上がっていくような曲。…このバンド、基本メロディアスなのに刻みリフの使い方が犯罪的に上手いんですが…。
そうした意味で、PECCATUMではアヴァンギャルド/アンビエント、HARDINGROCKではフォーク方面に接近してましたが、Ihsahnってやっぱりメタラーが本質なのかもしれませんね。 ただ、楽器の絡みを聴いているだけで恍惚となれるし、前作よりもクオリティを上げた素晴らしいアルバムだとは思うんですが、「Homecoming」のようなプログレッシブなメタルバラードや大作「The Pain Is Still Mine」を上手く配置し、ドラマティックな構成で聞かせてくれた1stの方が作品全体の流れは良いかもしれません。
ただ…私は日本盤を買ったんですが、帯や解説がちょっとチープな感じなのはご愛嬌としても、対訳が余りにも直訳でバンドへの愛情が全然感じられないのが残念。「Ferocious circle of fiends」を「恐ろしい友達の輪」と訳してたり全く意味不明な所もあるし…。この人、COFのNymphetamineの対訳もやってましたが、全然ヴァンピリックでゴシックな世界観を表現できてなかったし、ブラックの対訳は向いてないんじゃないでしょうか。Faustの思想に影響された歌詞を、分かりやすく、かつそれらしく訳せる人材を使って欲しかったです。