基本的にはゴシック的な耽美さ・怪奇さを含んだメロディが売りのシンフォニック・ブラックという感じですが…このバンドはキーボードだけでなく、SIRENIAやTRISTANIAにも在籍したMaestro Pete Johansen氏による生のヴァイオリンも入っていて、それがバンドが元々持っている耽美なメロディセンスを更に押し上げている感じですね。アンティークで上品な雰囲気、しかしどこか恐ろしさも感じさせるメロディは聴いていてうっとりできます。
確かに、単にダークなだけでない、不協的かつ有機的に蠢くようなメロディは、明らかにプログレ/アヴァンギャルド/テクニカルな方面に行ってからのDSOの影響下にありそうですね。しかしそれが乗るリズムが、手数は多いものの音量の小さい、音に融けるようなドラミングのため、更に有機的な気持ち悪さが強調されている感じ。テクニカルな面の追及をしない代わり、不気味さに特化したDSOという雰囲気で、常軌を逸したムードはBLUT AUS NORDっぽくもあるかも。
と言っても完全にDSOやBLUT AUS NORD的というわけでもなく…怒りに任せたがなり、泣きながら何かを懇願するような呻き、邪悪な意志を説くようなクリーンなど、感情の流れに従って狂気的なパフォーマンスをするようなヴォーカルが、数億匹の蚯蚓が壁面になったような、赤黒く蠢くバンドサウンドの前に出てパフォーマンスをする音像は、個人的には前作の感性を引き継いでるように思うんですよね。前作はアンビエント+語りというスタイルでしたが、何かをヴォーカルが訴えかけてくるスタイルが似てる。
まず1曲目の「Birth of Immortals」を聴いて、「えっ?」てなりました(笑)。 弦楽器(これがリラでしょうか)がお祭りというよりも、もう牧場で羊追ってる姿が浮かぶレベルの牧歌的なメロディを奏でたと思ったら、メロブラ的な、体感温度を下げるトレモロリフを入れてきて、「それを合わせちゃうんだ…」と衝撃を受けました。…とは言っても、そんなパートは一部で、全体的にはヴァイキングやメロデスに通じる演奏のパートが多く、牧歌メロや壮大なメロも第一印象ほど浮いてるわけではないですが。
このトレモロ偏重で、尚且つ高音でキリキリと心を締め付けるような音色も使っている辺り、KRALLICEやDER WEG EINER FREIHEITなどのバンドを思い出しますが…前者がポストブラック、後者がメロディックブラックの感性が強いのに対し、この作品は音作りやヴォーカルなどに未加工の生々しさがあって、プリミティブ的な感性を持っていると言えるかも。と言っても音質は悪くなく、寧ろ分離は良いくらいで、生っぽさを感じさせてくれるドラムの音色が心地よくて個人的にはかなりツボ。
前作と最新シングル(My Days for You)しか聴いておらず、シングルの流れを追ってなかったので、この1曲目は面食らいましたね…いきなり3・3・7拍子に合わせてコール&レスポンス必至なチアリーディング風の掛け声、からのパンキッシュなギターリフにOi!Oi!ですからね…思わずCD止めて考えてしまいました(笑)。曲自体はキャッチーでアッパーで、知ってる人とカラオケ行って、煽りまくって歌ったら楽しそうだし悪くないですけど。まあびっくりはしました。
ただ、基本はオーソドックスで凶悪なブラックメタルなんですが、後半ではグルーヴィなリフ・リズムを取り入れたり、ハモンドを挿入した長尺曲があったり、ハードロックやプログレへの傾倒を押し出したり、毛色の異なる展開も見せてますね。剰え、昔のブリティッシュロック(GUNのRace with the Devil)のカヴァーまで演ってますが…個人的にはこういう音楽に何の思い入れも無い(むしろ苦手)ので微妙ですね…サイケ趣味とブラックの凶悪さが上手い事合わさった長尺曲「Hiems」~「290979」は好みなんですが。
しかし、そんな事は全くマイナスに感じさせないくらい、キーボードやリードギターが奏でるメロディが素晴らしいです。例えて言うなら、「Dusk and Her Embrace」「Cruelty and the Beast」の頃のCOF並の美しさに、更に第一級のメロデス並の分かりやすいキャッチーさを加えたような、ロマンティック極まりないメロディが全編に渡って繰り広げられてます。収録時間は30分弱と短いので、クサメロ好きならメロディ追ってるうちに、あっという間に終わってしまう感じでしょう。
また、パートによってはKEEP OF KALESSINを連想させる、ストレートにエクストリームメタルならではのテクニカルなかっこよさを持ったギターワークで攻めたり、「Isa」期のENSLAVEDを思わせる、マッシブさとスピリチュアリティが同居した感触があったり、ノルウェー産ブラックの先人の、先進的な部分(かつ私が好きな部分・笑)を上手く消化して取り入れている印象。そういえば、ヴォーカルワークにも「Thorns」でのSatyrとAldrahnの影響が感じられたりしますね。
個人的な印象では、KEEP OF KALESSINやANTARES PREDETOR辺りのテクニカルなメロブラを7割、RED HARVESTやVOID辺りのインダストリアルブラックを3割くらいの割合で混ぜたような、意外と他で聴けない優れたバランス感覚のアルバムだと思う。ガチガチなインダストリアルやEBMよりも、エクストリームメタル好きにはこれ位の方が入っていきやすいかもしれません。