作詞がつんく氏で、作曲が外注というのは結構珍しいのでは。作曲は真野恵里菜さんに「My Days for You」を提供した中島さんが手掛けているだけあって、普遍的なポップスの魅力がありますね。曲だけ聴くと昔のBeingとかにありそうな感じ。我を張りまくるような曲調の多いアルバムの中では少し地味目に聴こえなくもないですが、単品で聴くとかなり良い曲だと思う。
ちなみに、CDトレイの下には「True Norwegian Black Metal」ロゴのパロディと思しき「True German Black Metal」ロゴが書かれてますが…TNBMロゴを使ってる代表的なバンドとしてTAAKEがいますが、メロディのセンスに秀でながらブチ切れた部分もあるスタイルは、確かにTAAKEと共通するポイントかもしれません。正直このヴォーカルに55分付き合うのは疲れますが(笑)、荒々しさとドラマティックさを併せ持つ良い作品ですので是非。
まあ、このバンド名でブラックメタルじゃなかったら虚偽表示もいいところですよね(笑)。内容は、「De Mysteriis~」から「Wolf’s Lair Abyss」期のMAYHEMの湿り気や展開と、三部作期のDARKTHRONEのツタツタとRAWな疾走をメインの作風を掛け合わせたようなブラックメタルの王道的な音。曲によってはキーボードも入りますが、あくまでRAWなバンドサウンドを中心とした作風。
マンドリンなども取り入れた、カントリー風アレンジの曲。つんく氏はBuono!の「Take it Easy」でも似た曲調を演ってましたが、こっちの方がもっとゆるい感じ。「オッホッホ~!」「ウ~~、オッホッホ~!」のつんくコーラスが楽し過ぎる(笑)。個人的にこういうカントリーちっくな優しくゆるいメロディと、アイドル歌唱の組み合わせって好きかもしれないです。聴くのに変に肩に力を入れる必要が無くて、癒されるというか…。メタルの合間にこういう曲も良いですよ。
吸血鬼がテーマのブラックというと、CRADLE OF FILTHが有名ですが、流石にあちらと比べると音作りや曲展開などは正直チープさを感じざるを得ません…が、その分一回聴いただけで世界観を共有できるような、分かりやすい感じがあるんですよね。COFが聖書や史実等もモチーフに世界観を展開するのに対し、こっちはヴァンパイアに特化している感じがするのも、分かりやすい一因かもしれませんね。女声ソプラノと男声のマイルドな声によるクリーンパートもかなり直接的にゴシックな情景を描写してますし。
…と、無難なレビューを書いて終わらそうと思ったんですけど…もう一つ言わせてもらえれば、2曲目「…where his ravens fly…」がクサ名曲過ぎてヤバい!やったら耳に残るヴァイキング的なクサメロを、朴訥なクリーン声で何度も繰り返して歌う曲で、中毒性が半端なく高いです。アルバム全体を見ても、ブラックの苛烈さとヴァイキングの泣きメロが融合した3曲目、インストながら彼らの神話的情景が聴いてすぐ浮かぶような描写力が光る4曲目、濃厚なドラマ性を持つ6曲目など、どの曲もキャラが立っててクオリティの高いアルバムなんですが…やはりこの2曲目は頭一つ抜けて名曲だと思う。
確かに生々しい音質ではありますが、WARブラックとかを普段聴いている人にとっては何の問題も無く聴ける音だと思う。贔屓目かもしれませんが、このころからやっぱり「持ってる」感じがするんですよね。「Wrath of the Tyrant / Emperor」を含む、EMPERORのアルバムを全て集めているようなEMPERORファンは、こちらも是非買うべきだと思います。
この作品は、ドイツの文学作品「ニーベルンゲンの歌」を下敷きとしたものらしいですが、ブラックメタルとしての反キリスト的立場からこの題材を選んだというよりは、純粋に作品のドラマ性を表現したかったんじゃないでしょうか。邪悪さよりも劇伴音楽のような大仰さの方が大分強いんですよね。個人的には、初期CRADLE OF FILTHの物語を下敷きにしたドラマ性と、初期DIMMU BORGIRの攻撃性よりもムードに重点を置いた音作りを合わせたような作品という印象を受けました。
「Renewing the Call for War」 ジギジギ系の金属質なノイジーさの中から、微かにメロウなメロディが聴こえてくるリフ捌きと、細かく脈動するようなベースライン、単調な打ち込みドラムが特徴の、カルト臭の半端ないプリミティブブラック。エフェクトの掛かりまくったノイジーなヴォーカルや、一頻り暴れ終わったら曲を閉じるミニマルな展開など、この手の中でも衝動性の高い音。時々疲れたように息を吐いてるようなヴォーカルは妙な味がありますね(笑)。どこか忙しないというか、細かい感じのするリズムの取り方は北欧勢とはちょっと違うポイントでしょうか。
「Playing with Toys that would have been Dangerous even for Plato’s Republic」 基本的には「Renewing~」と同路線の、衝動的なプリミティブブラックですが、若干曲が長くなったのと、メロディの煽情度が上がった事で少しだけエピックな感触に。ただ、ノイジーさが大幅アップし、MUTIILATIONの3rdや4thを更に耳に痛くしたような、物理的にキツい音質になってるので、カルト臭は更に増している印象。このパートでも忙しないリズムの取り方、たまに疲れたように息を吐くノイジーヴォーカルなど、味のある部分はしっかり引き継いでるのが良いですね。
「Himno a Jorge Rafael Videla」 このパートとボーナス2曲はシンセアンビエント。 サブタイトルの中に「オーケストラ」「ピアノ」「オーボエ」などの単語が散見される事からも分かる通り、クラシック風の美しいメロディを聴かせる作風。清浄さや荘厳さを感じる音像も美しく、さっきまで粗野なプリブラを演っていたとは思えない曲調。ちょっと音割れ気味な部分があるのは惜しいですが、やはりメロディは良いです。