ただ、前述したように楽曲の魅力自体は今までのWATAIN同様、凡百のバンドを寄せ付けないものがありますし、カオティックな「Outlaw」のような新機軸なかっこよさを打ち出した楽曲もありますし、良いアルバムである事は間違いないです。特に「Rabid Death’s Curse」「Casus Luciferi」よりも「Sworn to the Dark」「Lawless Darkness」の路線が好みの方はとにかく買うべき。
そして何よりも感銘を受けたのが、あまりにも凄絶なヴォーカルワーク。 「Wolf’s Lair Abyss」期のMAYHEM風の粘着質な絶叫と、OCEANO並みにイカツイガテラルを両方使いこなしてます。それも他のバンドのお手本となるくらい高いレベルで。特にガテラルの方は聴いててこっちまで胃がせり上がってきそうなグロさ。まだ新人と言えるキャリアですが、ベテランのデスメタルバンドのヴォーカルを蹴落とさんばかりの凄まじさがある。
このバンドは安易に寒々しいトレモロ疾走パートを挿入する事を避けているのか、展開に結構工夫が見られるんですが…その工夫が、逆にマニアック度を上げてしまっている感じですね…。音数を少なくして、隙間を感じさせる音作りにしてみたり、ノイジーさを殊更に強調してみたり…。普通にメロディアスなパートでは、ペイガン系に通じる叙情性があって悪くないんですが。特に5曲目「Brentt sie nieder」辺りは自己満足っぽさを感じてしまう。
基本は霊性の高い、幽玄でアトモスフェリックな音なんですが、抽象的で深遠なムードをしっかり保った上で、攻撃的な刻みリフであるとか、KRALLICEやDER WEG EINAR FREIHEIT並にメロディアスな、浴びせるようなトレモロリフであるとか、実体的なドラマ性を感じさせるフレーズもかなり多用しているのが特徴。そのせいかこの手のブラックでも最高クラスに劇的な仕上がり。魂が引き千切られるかのようなヴォーカルの絶叫もまた凄絶。
個人的に感動すら覚えたのは6曲目、「Manifest of the Crestfallen」ですね。冒頭のメタリックな攻撃性を剥きだしにしたリフを伴う畳み掛けからしてかっこいいですし、異様なくらいメロディアスなトレモロも物凄く印象に残る。フォーキッシュなキーボードをフィーチャーした叙情的なメロディや寒々しいアルペジオを突き破る刻みリフなど、展開の一つ一つがいちいちかっこよく、このハイクオリティな作品の中でも随一の名曲だと思う。
ベストの表記だと「The Dark Abyss」だけど…どっちが合ってるんだろ? 弦などによるメロディは聴き終わった後に口笛で吹きたくなるくらいに華やか(?)で、キャッチー。でもその後ろでは何故か時限爆弾が仕掛けられているような音が…。後半呻き声まで入るし。奈落を往く悪魔達の行進曲といった所でしょうか。
CRADLE OF FILTHを長年支え続けたギタリスト、Paul Allender氏の新バンドという事で話題も厚く、日本盤もリリースされている注目の一枚。私も購入しましたが、期待に違わぬクオリティの高さのある作品ですね。
作風は、クラシカルなメロディとメタリックなギターワークで攻める、シンフォニックなエクストリームメタルで、COFともそう遠くない路線ですね。COFの特に「Damnation and a Day」「Thornography」アルバムで聴けた音に近い、熱量の高い感じのギターワークがやはりかっこいい。デスやブラックよりも、正統派、メロデス、スラッシュ辺りの影響が強いのも当時のCOF的ですが、こちらでは更にその傾向は強くなっている印象。
ただ、後続に多大な影響を与えたBURZUMのクラシックな名曲「Det Som Engang Var」が、フレーズもムードも圧倒的なものがあったのに対し、このバンドは淡いギターノイズを含むリフの波でリスナーの気分を凹ませ、そこに物悲しげなメロディをうっすらと流して更に追い討ちを掛けるスタイルで、やはりBURZUMとは「似て非なるもの」だと思う。
「展開美」「構築美」で聴かせるシンフォブラックだと、まずCRADLE OF FILTHが思い浮かびますが、はっきり言ってCOFの新作よりもこっちの方が、聴き手の印象に焼きつく、インパクトとエネルギーを持った曲作りが出来ていると思う。私はこの作品で彼らを知りましたが、他のブログなどを見るに、耳聡い人は1stの時点で既にチェック入れてるみたいですね。私ももっと頑張らなければ…。
ちなみに南米産のバンドを多く扱う有名レーベル、Hammer of Damnationからの再発盤には、ボーナスでBathoryのカヴァーに加え、95年から2000年までの音源から6曲が収録されており、軽くベスト盤の様相を呈していてかなりお得。95年の音源は如何にもデモって感じですが、メロウさをRAWさが際立てる97年音源、サタニックなムードの色濃い2000年音源など本編とは違う味わいで良い感じ。ただ、Satanic Propagandaから出てるオリジナル盤は、DISSECTIONの超名曲「The Somberlain」のカヴァーが付くらしいので、そっちを探すのもありかも。
このバンドも、WOLVES IN THE THRONE ROOMの系譜に当る、自然崇拝系のブラックを演ってますね。ザラついたリフに勇壮だったり、悲しみに満ちていたりなペイガン要素も含むメロディを含蓄させ、それを纏って疾走する作風はかなり共通した世界観を持ってると思う。ヴォーカルのハイピッチながなりも情景にフィットしてます。
こういう作風にしては珍しく、Satyrがヴォーカルを取る箇所も多いですが、彼の声もメロディに負けず本当に素晴らしい…。サイドプロジェクトのSTORMでも聴く事の出来る朗唱スタイルですが、向こうよりも幾分丁寧に歌っていて、Ihsahn並に気品のある声です。3曲目のサンプリングの内容(びよ~ん、びよ~ん)が思いっきりWHENの「THE BLACK DEATH」と被るんですが、初期WHENはそのダークな雰囲気から北欧のブラックメタラーの間では人気が高かったらしいし、Satyrの音楽のルーツにあるアーティストなのかもしれません。そういえばSATYRICONの作品でもWHENの曲をサンプリングしてますし。