メロディの性質からは、シューゲイザーブラック好きにもお勧めできそうですが…やっぱり、鬱ブラック特有の、「死」を感じさせる雰囲気もかなり強いと思う。メロとは対照的に、ヴォーカルはSILENCERの裏返り部分のみを参考にしたような、疲弊しきった感じの悲鳴ですし(笑)。TRISTが自傷、CIRCLE OF OUROBOROUSが衰弱死ならこのバンドは安楽死という感じ。朦朧とした中、必死で生存を叫ぼうとする意識…しかし、最早肉体にはそれを表現する術は無かった…みたいなストーリーが浮かびます(笑)。
リフで寒々しさを演出する、いわゆる「DISSECTION系」のメロブラですが…ここまでDISSECTIONへの憧憬と敬意が感じられる音楽性のバンドは、他に無いのではないでしょうか。温度だけでなく辺りの景色の明度までも下げるようなブリザードリフ、暗黒美の中にも気品の感じられるメロディ、中音域でのシャープながなり声など、基本的な部分も似てますが、クリアながら氷の礫を思わせる歪みの掛かった音質や死神ジャケのアートワークまで、徹底して意識してる感じ。パートによっては「Unhallowed」「Thorns of Crimson Death」の変奏にすら聞こえるフレーズも。
個人的に、こういう芯までDISSECTION系なメロブラって貴重だと思うんですよね…。リフで寒々しさを描くメロブラでも、DARK FUNERALはブルータルだし、KEEP OF KALESSINはテクニカル、NAGLFARやOLD MAN'S CHILDはメタリックなど、意外と純粋に「DISSECTION系」って少ないんですよね。それっぽい音楽性のバンドでも、トラッドやプログレ風のフレーズを挟んだりすることが多いし、このバンド程徹底してるのは非常に稀。DISSECTIONが3rdでメロデス方向に行き、リーダーの自殺で解散した事に嘆いた方の中には、このバンドのデビューに快哉を叫んだ人も多いのでは。
一部では「Storm of the Light's Bane」を継ぐアルバムとしても名高い作品。個人的には、「Unhallowed」「Black Horizons」など、ブラックのクラシックと言える名曲を遺したDISSECTIONと比べると、まだ楽曲そのものは少し弱く思ってしまいますが、この路線を変えずに頑張って頂きたいバンドです。
このバンドはギリシャ産のブラックメタルバンドで、メンバーのSemijaza氏はACRIMONIOUSを始め、KAWIRやRAVENCULTなどギリシャ産でも割と知名度の高いバンドに在籍している/していた…というプロフィールを持ってますが…ザリザリした質感を持つ、土着性や呪術性を練り込んだリフが、スラッシーなノリの良さも見せるリズムと連動する作風は、TAAKE辺りを代表とするノルウェー産ブラック、それもTrue Norwegian Black Metalを標榜するグループを思わせますね。
Pest Productions発、ブラジル産の鬱ブラックというプロフィール、そして一曲目のピアノメインのインスト「Suici.De.Spair」の、まるで自分の人生が勝手に美しい物語に置き換えられて完結させられるかの如き、致命的なまでにメロウな雰囲気から本編にも期待したんですが…期待以上なんですが、この作品。この手って掴みのインストが一番ムードがあったりする残念なことが少なくないですが、この作品は最初にここまで期待値を上げておいて、それ以上のものを提供してくれるという真逆のことをやっていて素晴らしいです。
鬱ブラックやシューゲイザーブラックって、全体の雰囲気や溢れ出る感情を聴かせるものも多いですが、このバンドは楽曲やフレーズで聴かそうという志向が非常に強いのが特徴ですね。例えば、2曲目「Wanderer of Solitude」は2本のアコギが可憐に絡むイントロから、ドゥーミーに引き摺るリフに、人々が黄昏の海に還っていく情景を思わせる、人類自体のエンディングテーマのような終末的メロウさを感じさせるメロディが乗る、儚く物悲しくもどこか破滅めいた雰囲気の本編へと展開する楽曲。
直接的な攻撃性を志向せず、あくまで陰鬱な情景を描くことに徹しているような作風や、時折神秘性を感じさせる音使いがあるのはポストメタル的なんですが、ブラックメタルから離れ過ぎないバランスも良いですよね。基本的に陰鬱なバンドサウンドが続き、ヴォーカルも変に線の細さのないがなり声なのである意味聴きやすく耳馴染みのいい音なんですよね。個人的には、「White Tomb」「Mammal」期のALTAR OF PLAGUESや、ASH BORER辺りと近い雰囲気を持ってるような印象があります。
個人的には、ここまでぶっ壊れられると正直厳しいんですが…MUTIILATIONや初期DARKTHRONEが大丈夫でもこれはキツいと思う。EMPERORの最高傑作は「Wrath of the Tyrant」と迷い無く断ぜる方や、MUTIILATIONはまとも過ぎて温いと感じるマニアックな方以外にはお勧めは出来ません(笑)。 16分しかないのにここまで聴き手に消耗を強いる音源も珍しいです。
ヴォーカルは、彼のトレードマークと言える呪詛ヴォーカルとは少し違う、ドスの効いた潰れ声でテンション高く喚き散らすスタイル(Buried by Time and Dustに近いと思う)ですが、この歌い方でも呪わしさみたいなものが滲み出ていて、Euronymousが「呪詛系ヴォーカルをやらせるなら彼しかいない」と白羽の矢を立てたのも凄く良く分かる。
SE的な曲を多用した、シアトリカルなスラッシュメタル/ハードロックという感じの作風で、アンダーグラウンドの熱気をそのままコンパイルしたような、名盤だった1stとは全く別物。表題曲や「Iron Country」辺りはまだ暗黒臭が仄香るものの、「Little Match Girl」なんかほとんど(Vo以外)普通のハードロックだし、全体的なファニーでユーモラスと言うか、ジョークめいた雰囲気が漂ってる。
ただ、店ではDEATHSPELL OMEGAの影響の強い音と紹介されており、実際私もそれに釣られて(加えて、レーベルがWorld Terror Committeeだった事もあり)購入したクチなんですが、ばっさり「DSO系」で括ってしまうには、少し抵抗のある音なんですよね。DSOは神秘性や前衛性が強く、ミステリアスな印象があるんですが、このバンドは衝動性や直接的な暗黒性をより強く感じられ、もっと邪悪さを身近に感じられるような音。こちらはスラッシーなリフ・リズムも多用されており、宗教色が濃い中にもオールドスクールな側面が垣間見れる作風のため、そういう印象になるのかもしれません。ヴォーカルの凄みの効いた叫びも、生々しい衝動に満ちている感じがしますし。
特に試聴もしないで買ってしまったんですが、やっぱりこのレーベルってハズレがないですよね。同レーベルのCHAOS INVOCATIONやACHERONTAS、ASCENSIONやORDER OF ORIASなどが好きであれば、このバンドも要チェックです。
「Luciferian Call」もイントロの叙情暗黒トレモロ疾走から意外なメカニカルリフに繋げる展開は良いのに、後が続かないし、せっかくリードがメロく暴れ、雰囲気を作っておいてコーラスで何故かテンションを下げる「Slaves to Anguish」といい、DISSECTIONやNECROPHOBICと差別化した展開を入れようとすればするほど、無難な感じになってしまってるように思えるんですよね…。